ゆどの
浴室

冒頭文

一 ……此処まで来れば、もはや探し出されるおそれはない。あらゆるものから遁れて来た。あらゆる障碍から、あらゆる圧迫から、あらゆる苦痛から。かう思つて、Kはじつとあたりを眺めた。 サツと流れてゐる谷川が一番先きに眼に入つた。それはさう大して好いといふほどではないが、ところどころに岩石があつて、その上で新しい鍔広(つばひろ)の麦稈帽を日にかゞやかしつゝ避暑客が鮎を釣つてゐるのがそれと指(ゆびさ)

文字遣い

新字旧仮名

初出

「苦楽 第二巻第四号」プラトン社、1925(大正14)年10月1日

底本

  • 定本 花袋全集 第二十一巻
  • 臨川書店
  • 1995(平成7)年1月10日