ひとつのパラソル
ひとつのパラソル

冒頭文

一 大学生のKが春の休みに帰つてからもう三日になつた。かれは昨年の矢張今頃に母と父とを三日おきに亡くしてゐるので、そのお祭をするのもその帰郷の大きな理由だが、それ以上にかれは常子の眉目に引かれてゐた。Kはせめてその休暇をかの女のゐるところで静かに送らうとしたのである。 勿論、二人の間にはまだ何事も出来てゐるのではなかつた。Kの憧憬(あこがれ)は其処にも此処にもその常子の面影を見、呼吸を感じ、

文字遣い

新字旧仮名

初出

「令女界 第四巻第十一号」1925(大正14)年11月1日

底本

  • 定本 花袋全集 第二十二巻
  • 臨川書店
  • 1995(平成7)年2月10日