ののはなを
野の花を

冒頭文

静かに木の立つやうに 静かに木の立つたやうに、物も思はず、世も思はず、自己をも思はず、人間をも思はず——。 唯自然に 慈悲と言ふことも、頭に上つて来なければ来なくとも好い。他でもなければ自でもなく、自でもなければ他でもない。飽くまで唯、自然に。 蠅 障子の桟にもう動けなくなつた蠅が一つとまつてゐる。辛うじて紙につかまつてゐるだけで、もう少し経つたら、ばたりと落ちて死んで了ふだらうと思

文字遣い

新字旧仮名

初出

「文章世界 第十五巻第一号」1920(大正9)年1月1日

底本

  • 定本 花袋全集 第二十四巻
  • 臨川書店
  • 1995(平成7)年4月10日