はなたば
花束

冒頭文

一 順吉は今でもはつきりとその時のさまを思ひ出すことが出来た。右に石垣、その下に柳の大きな樹が茂つて、向うに橋がある——その橋も、殿様のゐる頃には大小を挟(たばさ)んだ侍が通つたり、騎馬の武士が蹄(ひづめ)を鳴して勇しく渡つて行つたりしたもので、昔は徒士(かち)や足軽の子供などはそこに寄りつけもしなかつたものであつたが、城に草が生えるやうになつてから全く廃(す)たれて、ぎぼしは盗まれ、欄干は破れ

文字遣い

新字旧仮名

初出

「令女界 第五巻第五号」1926(大正15)年5月1日

底本

  • 定本 花袋全集 第二十二巻
  • 臨川書店
  • 1995(平成7)年2月10日