なみのおと |
| 波の音 |
冒頭文
一 『何うもあれは変だね?』かう大学生の小畠(こばた)はそこに入つて来た旅舎の中年の女中に言つた。それは広い海に面した室で、長い縁側と、スロオプになつてゐる広場とを隔てゝ、向うに波の白く凄(すさま)じく岩に当つて砕けてゐるのを目にするやうなところであつた。『え?』 頷で客の指す方に眼を遣りながら女中は訊いた。 『あの女さ?』『あ、あの岩の上の? 本当ね? 何うかしてるのね?』女中もぢつと其方の方
文字遣い
新字旧仮名
初出
「女性改造 第二巻第四号」1923(大正12)年4月1日
底本
- 定本 花袋全集 第二十二巻
- 臨川書店
- 1995(平成7)年2月10日