ちゅうしゅうのころ
中秋の頃

冒頭文

芭蕉の葉が破れ始めた。これでも、秋がもう深くなつたことが思はれる。朝、目が覚めると虫の音がさびしく聞えてゐる。それが言ふに言はれない詩興を促がす。 これからは書ける時だなどと思ふ。その癖、毎年碌なものを書いたためしもなく過ぎて来た。二十五六年前に、『隅田川の秋』といふ作をした時のことなどが不思議に思ひ出されて来た。 もうあの時分のやうな興会(きようくわい)は得られまいと思ふとさびしい気がす

文字遣い

新字旧仮名

初出

「文章世界 第十二巻第十号」1917(大正6)年10月1日

底本

  • 定本 花袋全集 第二十四巻
  • 臨川書店
  • 1995(平成7)年4月10日