すいげんをおもう
水源を思ふ

冒頭文

水源といふものを私は若い頃から好きで、わざわざそれを探険しないまでにも、よくそれに沿つて溯(さかのぼ)つて行くことが好きだつたが、今から百二三十年前に、江戸に橘樹園(きつじゆえん)といふ人があつて、多摩川の上流に興味を持ち、何遍となくそれに溯つて、遂にはその水源までも窮めたといふ旅行記のあつたことを今でもをりをり私は思ひ出した。実際、大きな河が溯るにつれて次第に細く、時には深い渓谷を穿ち、時には瀬

文字遣い

新字旧仮名

初出

「読売新聞 第一七〇四〇号」1924(大正13)年8月25日

底本

  • 定本 花袋全集 第二十四巻
  • 臨川書店
  • 1995(平成7)年4月10日