じしんのとき
地震の時

冒頭文

すさまじい光景だ。人が行く。荷馬車が行く。乗合自動車が行く。鈴生になつてゐる電車が行く。路も歪んでゐる。樹も曲つてゐる。空も三角になつて見える。何うしても立体派の絵画といふ気がした。私は草鞋穿きに脚絆といふ姿で二食の結飯を脊負つて、焼跡をそつちから此方へと歩いた。 自然の力は大きい。人間の拵へたものなどは何でもない。一応は誰でもさういふ気がするだらう? しかし夫は今の場合余りに抽象に過ぎる。さう

文字遣い

新字旧仮名

初出

「週刊朝日 十月増刊」1923(大正12)年10月10日

底本

  • 定本 花袋全集 第二十三巻
  • 臨川書店
  • 1995(平成7)年3月10日