さんかんのりょしゃ
山間の旅舎

冒頭文

一 山と山との間である。雨が降つてゐる。かなり強く降つてゐる。汽車の窓から覗くと、谷川が凄じく音を立てゝ白く砕けて流れてゐるのが見える。汽車の速力は次第に緩くなつて、やがて山の腹のやうなところに行つて留つた。小さな停車場——ほつ立小屋のやうな停車場がそこにあつた。B達は下りた。 B達は以前からそこで下りたいとは思はないではなかつたが、この雨ではとても下りることは出来ないと思つてあきらめてゐた

文字遣い

新字旧仮名

初出

「行楽 第一巻第一号(創刊号)」行楽社、1925(大正14)年4月1日

底本

  • 定本 花袋全集 第二十一巻
  • 臨川書店
  • 1995(平成7)年1月10日