ばしゃ
馬車

冒頭文

由良は多木の紹介で脳に特効あるという彼の郷里の温泉へ行くことにした。医者は由良の脳病の原因を疲労の結果だというのだが、とにかく満ち溢れていた水を使い尽してしまった後に起るあの空虚な皮質ばかりを、露骨に頭脳は絶えずがんがんと感じるのだ。文字を見ていても、行と行とが浮き上って紙の上で衝突を始めたり、物事を考えていても、それが心の中で言葉となって進行を始めかけると、もう言葉そのものが前後を乱してばらばら

文字遣い

新字新仮名

初出

「改造 第十四巻第一号」1931(昭和7)年1月1日

底本

  • 愛の挨拶・馬車・純粋小説論
  • 講談社文芸文庫、講談社
  • 1993(平成5)年5月10日