ははへのついぼ
母への追慕

冒頭文

父の顔を知らない私には、母は「母と父をかねた両親」であった。 私の母は二十六の若さで寡婦となった。 人一倍気性が強かった。強くなければ、私と私の姉の二児を抱いて独立してゆけなかったからである。 母の男勝りの気性は、多分に私のうちにも移っていた。 私もまた、世の荒浪と闘って独立してゆけたのは、母の男勝りの気性を身内に流れこましていたからなのであろう。

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 日本の名随筆 別巻84 女心
  • 作品社
  • 1998(平成10)年2月25日