くずれたどて
くづれた土手

冒頭文

一 一夜すさまじく荒れた颱風の朝、Kはいつもよりも少し遅れて家を出た。雨はまだぽつぽつ落ちてゐたけれども、空にはところどころ青いのが見えて、強弩(きやうど)の末と言はぬばかりの風が割合に静かに大きな樹の梢の葉を吹いてゐた。しかし何処にも風雨の跡を留めないところはなかつた。家々の屋根の甍は剥がれ、垣は倒され、電車への路の新開町はすつかり洗はれて石が出てゐた。阪に添つたところには、切断された電線が長

文字遣い

新字旧仮名

初出

「若草」1925(大正14)年12月

底本

  • 定本 花袋全集 第二十二巻
  • 臨川書店
  • 1995(平成7)年2月10日