おおさかで
大阪で

冒頭文

汽車で、東京の近郊に行く。麦の黄熟したさま、里川のたぷたぷと新芽をたゝえて流れてゐるさま、杜の上に晴れやかに簇(むら)がり立つた雲のさま、すべて心を惹かないものはない。『麦ははや刈り取るべくもなれる野にをりをり白し夏蕎麦の花』歌は平凡だが実景である。 香川景樹の歌に、『夜半の風麦の穂立(ほだち)におとづれて蛍とぶべく野はなりにけり』といふのがあるが、いつでも今頃になると思ひ出されて来る。夜半の

文字遣い

新字旧仮名

初出

「文章世界 第十五巻第七号」1917(大正6)年7月1日

底本

  • 定本 花袋全集 第二十四巻
  • 臨川書店
  • 1995(平成7)年4月10日