いなかからのてがみ
田舎からの手紙

冒頭文

一 なつかしきK先生、 ゴオと吹きおろす凩の音に、又もや何等の幸福も訪れずに、夕暮がさびしくやつてまゐりました。遠くには、高社山(こうしやざん)の白皚々とした頭を雲の上にあらはし、はかなく栄える夕日を浴びて、永遠に黙つて悲惨な色を出して輝いてをります。飛び行く烏はカアの一声を残して、小牛の寝ころんだやうな形をした三峰の山のかげへとその姿をかくして了ひました。——うら悲しい思ひと、夕の冷気に襲は

文字遣い

新字旧仮名

初出

「新小説 第二十三年第二号」1918(大正7)年2月1日

底本

  • 定本 花袋全集 第二十二巻
  • 臨川書店
  • 1995(平成7)年2月10日