いそしみず
磯清水

冒頭文

一 二人はよく裏の松林の中を散歩した。そこにはいろいろな花が下草に雑つて刺繍でもしたやうに咲いてゐた。黄(きいろ)い小さな花、紫色をした龍胆に似た花、白く叢を成して咲いてゐる花、運が好いと、真紅(まつか)な美しい撫子の一つ二つをその中から捜すことは出来た。波の音は地を撼(うごか)すやうに絶えずきこえて来てゐた。下には海水浴をする人達のために構へられた旅舎が二軒も三軒も連つてゐるのが見えた。 『

文字遣い

新字旧仮名

初出

「令女界 第四巻第九号」1925(大正14)年9月1日

底本

  • 定本 花袋全集 第二十二巻
  • 臨川書店
  • 1995(平成7)年2月10日