あるひのいんばぬま
ある日の印旛沼

冒頭文

私達は茣蓙(ござ)を持つたり、煙草盆を持つたり、茶器を携へたりして、午前の日影のをりをり晴れやかに照りわたる間を土手の方へと行つた。水田の中では水鶏(くゐな)の声が頻りにきこえた。 『コ、コ、ココ、コ、コ』 いかにも水に近い感じであつた。沼はまだそれと見えてはゐなかつたけれども、あたりの地形から押し、土手のさまから押して、それの近いのが私にもそれと知れた。私達はまだいくらか朝露の残つてゐる田の畔

文字遣い

新字旧仮名

初出

「新青年 第一巻第十号」1920(大正9)年9月13日

底本

  • 定本 花袋全集 第二十四巻
  • 臨川書店
  • 1995(平成7)年4月10日