くんしょうをもらうはなし
勲章を貰う話

冒頭文

一 春が来た。欧州戦争第二年目の春が来た。すべてのものを破壊し、多くの人類を殺傷している戦争も、春が蘇(よみがえ)ってくるのだけは、どうすることもできなかった。 戦争の荒し壊す力よりも、もっと大きい力が、砲弾に砕(くだ)かれた塹壕(ざんごう)の、ベトンとベトンの割れ目から緑の芳草(ほうそう)となって萌え始めた。砲弾に頂(いただき)を削り去られた樺(かば)の木にも、下枝(しずえ)いっ

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 菊池寛 短篇と戯曲
  • 文芸春秋
  • 1988(昭和63)年3月25日