むかしのおんな
昔の女

冒頭文

埃深(ほこりふかい)い北向の家である。低い木ッ葉屋根の二軒長屋で、子供の多い老巡査が住み荒して行ッた後(あと)だ。四畳半と三畳と並んで、其に椽が付いて南に向ッてゐる。で日は家中に射込むて都(すべ)て露出(むきだ)し……薄暗い臺所には、皿やら椀やら俎板やらしちりんやらがしだらなく取ツちらかツてゐるのも見えれば、屡(よ)く開ツ放してある押入には、蒲團綿やら襤褸屑(ぼろくず)やら何んといふこともなくつく

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「中央公論」1908(明治41)年12月1日

底本

  • 三島霜川選集(中巻)
  • 三島霜川選集刊行会
  • 1979(昭和54)年11月20日