きらこうずけのたちば
吉良上野の立場

冒頭文

一 内匠頭(たくみのかみ)は、玄関を上ると、すぐ、 「彦右衛(ひこえ)と又右衛(またえ)に、すぐ来いといえ」といって、小書院へはいってしまった。 (そらっ! また、いつもの癇癪だ)と、家来たちは目を見合わせて、二人の江戸家老、安井彦右衛門と藤井又右衛門の部屋へ走って行った。 内匠頭は、女どもに長上下(ながかみしも)の紐を解かせながら、 「どうもいかん! また物入りだ! し

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 菊池寛 短篇と戯曲
  • 文芸春秋
  • 1988(昭和63)年3月25日