はいご
背後

冒頭文

重苦しい六時間の授業が終って、侃は一人で校門を出る。午後三時の秋の陽光(ひざし)が、静かな狭い小路の屋根や柳に懸ってゐる。ここまで来ると、彼は吻とするのだ。或る家の軒下には鶏が籠に入れられて、大根の葉を啄んでゐる。向ふの日棚では赤い縁の蚊帳が乾してある。だが侃が今歩いてゐる左側には、昨日の雨に濡れたままの、苔をつけたコンクリートの壁が、まだ暫くは続いてゐる。壁越しに見える校舎の亜鉛の棟の尖端が、ま

文字遣い

新字旧仮名

初出

底本

  • 普及版 原民喜全集第一巻
  • 芳賀書店
  • 1966(昭和41)年2月15日