にじ

冒頭文

二晩ぐらゐ睡れないことがあると、昼はもとより睡れなかった。彼の頭はうつつを吸ひすぎて疲れ、神経はペンさきのやうに尖った。明るい光線の降り注ぐ窓辺のデスクで、彼はペンを走らせた。念想と云ふ奴は縦横に跳梁して彼を焼かうとする。響のいい言葉や、微妙な陰翳や、わけてもすべてのものの上に羽撃く生命への不思議な憧れや…… へとへとに疲れてベットに横はると、更に今度は新しい念想がきれぎれに飛ぶ。何だか

文字遣い

新字旧仮名

初出

底本

  • 普及版 原民喜全集第一巻
  • 芳賀書店
  • 1966(昭和41)年2月15日