彼はその女を殺してしまはうと決心しながら、夜更けの人足も薄らいだK——坂を登ってゐた。兇器にするか、何にするか、手段はまだ考へてゐなかった。が、その烈しい憤怒だけで、彼は女の首を完全に絞めつけることが出来さうだった。 ふと彼は考への途中で、夜店の古本屋の爺さんを何気なしに眺めた。爺さんは一人ほくほくしながら店をしまってゐた。人のいい、実に和(なご)やかな笑顔が彼を見た。爺さんは今何が嬉しいのだ