とうめいなわ
透明な輪

冒頭文

三角形の平地を七つに岐れて流れる川は瀬戸内海に注いでゐた。平地を囲んで中国山脈があった。平地は沢山の家や道路で都市を構成してゐた。それは今も活動してゐるのだが、彼は寝たまま朧げに巷の雑音を聞いてゐるので、活きてゐる街の姿がもう想ひ出せなかった。 そのかはり殆ど透明な輪のやうな風景が、彼の頭には次々と浮んで来る。風景と云ふものは、臭ひや温度を持ってゐるから、瀕死の男にとっては苦痛の筈なのだ

文字遣い

新字旧仮名

初出

底本

  • 普及版 原民喜全集第一巻
  • 芳賀書店
  • 1966(昭和41)年2月15日