ざんせつ
残雪

冒頭文

青空に風呂屋の煙突がはっきり聳えてゐた。その左の方に外苑の時計台と枯木の梢が茫と冬日に煙ってゐた。もっと近いところには屋根の入り乱れた傾斜が、一方に雪を残して続いてゐた。雪があるので、そこの二階の縁側からは景色が立体的に見えた。立体的と云へば、この景色を眺めて争ってゐる二人の男の対比もまたさうであった。 一人はこの春さきの景色が煽情的だと云って頻りに嬉しさうに眺め廻した。一人は彼がそんな

文字遣い

新字旧仮名

初出

底本

  • 普及版 原民喜全集第一巻
  • 芳賀書店
  • 1966(昭和41)年2月15日