かっそう
滑走

冒頭文

雁江の病室には附添ひの看護婦がゐた。彼女と同じ位の年輩だったが、看護婦の方が遙かに大人びてゐた。長い患ひが、この頃やうやく癒えて来ると、雁江は身体だけでなく心までがすっかり変って来るやうな気がした。病室には早咲きのシクラメンがあった。看護婦は四六時中雁江の部屋にゐた、もう一カ月あまりその部屋の空気を一緒に呼吸して来たのだった。病気に罹ると云ふことを雁江はもともと厭でなかった。父がまだ生きてゐる頃な

文字遣い

新字旧仮名

初出

底本

  • 普及版 原民喜全集第一巻
  • 芳賀書店
  • 1966(昭和41)年2月15日