いすとでんしゃ
椅子と電車

冒頭文

二人は暑い日盛りを用ありげに歩いた。電車通りの曲ったところから別に一つの通りが開けて、そのトンネルのやうな街に入ると何だか落着くのではあった。が、其処の街のフルーツ・パーラーに入って柔かいソファに腰掛けると猶のこと落着くやうな気がした。で、彼等は自分達がまたもや何時ものやうにコーヒーを飲みに行くのであることを暗黙のうちに意識してゐた。 電車や自動車の雑音はさっきから彼等の会話を妨げてゐた

文字遣い

新字旧仮名

初出

底本

  • 普及版 原民喜全集第一巻
  • 芳賀書店
  • 1966(昭和41)年2月15日