アトモス
アトモス

冒頭文

穏かな海に突き出してゐる丘の一角で、一人の人間が勝手な瞑想をしてゐた。恰度彼が視てゐる海の色は秋晴れの空と和して散漫な眺めではあったが、それは肩に暖かい日光が降り注ぐためでもあった。彼は芝生の上に落ちてゐる自分の影法師を眺めて、何か微妙な苦悩を貪ってゐた。そこには何か解きあかしたい一つの感覚があった。塩分を含んだあたりの空気を彼は吸っては吐き、吐いては吸った。そのうちに彼は不図無意味に近くかう口遊

文字遣い

新字旧仮名

初出

底本

  • 普及版 原民喜全集第一巻
  • 芳賀書店
  • 1966(昭和41)年2月15日