ゆずゆ
ゆず湯

冒頭文

一 本日ゆず湯というビラを見ながら、わたしは急に春に近づいたような気分になって、いつもの湯屋の格子をくぐると、出あいがしらに建具屋のおじいさんが濡れ手拭で額をふきながら出て来た。 「旦那、徳がとうとう死にましたよ。」 「徳さん……。左官屋の徳さんが。」 「ええ、けさ死んだそうで、今あの書生さんから聞きましたから、これからすぐに行ってやろうと思っているんです。なにしろ、別に親類という

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 岡本綺堂読物選集3 巷談編
  • 青蛙房
  • 1969(昭和44)年9月5日