やしおのいでゆ
八塩のいでゆ

冒頭文

思ふとしもなけれども、思ひださるゝやさしきおもかげの身に添ふ心地して、拂ふに由なく、忘れむとすれど忘られず。かくてはと、われとわが心をはげまして讀むふみの、字はいつしか消えうせて、さながら霞たなびきたるが如くなるに、せめて青山白雲のほとりにさまよはばやと思ひたつも、はかなき旅なり。 武藏と上野との界なる八鹽のいでゆに一夜とまりて、明くる日は、名だゝる三巴石を見むとて、神流川の上流に溯る。わす

文字遣い

旧字旧仮名

初出

底本

  • 桂月全集 第二卷 紀行一
  • 興文社内桂月全集刊行會
  • 1922(大正11)年7月9日