ちゅうぐうじのはる
中宮寺の春

冒頭文

ある歳の一月五日午後二時過ぎのことでした。 私は、その頃まだ達者でゐた法隆寺の老男爵北畠治房(きたばたけはるふさ)氏と一緒に連れ立つて、名高い法隆寺の夢殿のなかから外へ出てきました。 山国の一月には珍しいほどあたたかい日で、薄暗い堂のなかから出てきた眼には、眩(まぶ)し過ぎるほど太陽は明るく照つてゐました。石段の下には見物客らしい、立派な外套を被(はお)つた四十がらみの紳士がた

文字遣い

新字旧仮名

初出

底本

  • 泣菫随筆
  • 冨山房百科文庫、冨山房
  • 1993(平成5)年4月24日