ゲエテの「ふゆのハルツにたびす」
ゲエテの「冬のハルツに旅す」

冒頭文

ゲエテの「冬のハルツに旅す」の斷章にブラアムスが附曲したアルト・ラプソディを、一週間ばかり前からレコオドでをりをり聽いてゐるが、どうもそれを唱つたオネエギンといふ女のひとの、すこし北歐訛りのある陰影に富んだ、底光りのする歌ごゑがすつかり耳についてしまつてゐる。夜など、ふと目をさますと、その歌が耳の底から蘇つてくるやうである。……しかし、ずつと病牀にゐる私は、ついおつくふにしてそのドイツ語の歌詞を分

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「一橋新聞 第三百号」1940(昭和15)年1月1日

底本

  • 堀辰雄作品集第五卷
  • 筑摩書房
  • 1982(昭和57)年9月30日