きつねのてぶくろ〈しょうじょ〉
狐の手套〈小序〉

冒頭文

昔からよく隨筆の題にはその筆者の好む花の名などが用ひられてゐる。あれは何んとなく氣もちの好いものである。いま、ここにすこし隨筆めいたものを集めたついでに、ひとつその眞似をしてやらうと思つて、こんな題をつけて見た。因みに『狐の手套(てぶくろ)』と云ふのは、あの夏の日ざかりに紫いろの花を咲かせるヂギタリスの花の異名ださうだ。

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「本」江川書房、1933(昭和8)年2月1日

底本

  • 堀辰雄作品集第五卷
  • 筑摩書房
  • 1982(昭和57)年9月30日