いろあせたしょかんせんに |
色褪せた書簡箋に |
冒頭文
まだ發表しないでそのまま何處かへ藏ひ込んでしまつたアポリネエルの飜譯が二三あつたのを思ひ出して、僕は數日前、ごちやごちやになつた手文庫の中を丹念に搜してゐたら、「贋救世主アンフィオン」などの譯稿と一しよに、そんなもののあつたのを僕自身すつかり忘れてゐた、四枚ばかりの色褪せた書簡箋に細かな字で書き込んである、或る一個の覺書が見つかつた。それには「自殺に就いてのテスト氏の意見」といふ題がつけられてゐる
文字遣い
旧字旧仮名
初出
「セルパン」1933(昭和8)年5月1日
底本
- 堀辰雄作品集第五卷
- 筑摩書房
- 1982(昭和57)年9月30日