「ばしゃ」
「馬車」

冒頭文

「馬車」は横光利一さんのもつとも特異な作品の一つである。横光さんの作品の基底には、いつも humain なものと surhumain なものとがふしぎに交錯してゐるが、それがどちらがどちらだか分らないくらゐな點にまで達するとき、その作品は大概成功してゐる。ことに「馬車」においてはその效果がいちじるしい。物語は、先づ、半陰影のうちに展開する。その無意味なやうな薄暗がりのなかに何者かがくんづほぐれつし

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「限定出版四季社・江川書房季報 第九号」1934(昭和9)年7月15日

底本

  • 堀辰雄作品集第五卷
  • 筑摩書房
  • 1982(昭和57)年9月30日