オンブラ ディ ベネジア
Ombra di Venezia

冒頭文

きのふからギイ・ド・プウルタレスの「伊太利に在りし日のニイチェ」といふ本を讀み出してゐる。忠實な傳記ではないかも知れないけれど、なかなか面白い。いま讀んでゐるところは、ニイチェが三十六七の時、獨逸を去つてはじめて伊太利に赴き、先づ最初ヴェネチアに滯在してゐた頃(一八八〇年三月—六月)の有樣を敍した一章であるが、ここに描かれてゐるニイチェの姿には、これまであまりにも屡〻ニイチェといふ名の下に描かれて

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「文藝通信」1936(昭和11)年6月号

底本

  • 堀辰雄作品集第五卷
  • 筑摩書房
  • 1982(昭和57)年9月30日