わたしをかたる ――(しょうそくにかえて)――
私を語る ――(消息に代えて)――

冒頭文

私もいつのまにやら五十歳になった。五十歳は孔子の所謂、知命の年齢である。私にはまだ天の命は解らないけれど、人の性は多少解ったような気がする。少くとも自分の性だけは。—— 私は労れた。歩くことにも労れたが、それよりも行乞の矛盾を繰り返すことに労れた。袈裟のかげに隠れる、嘘の経文を読む、貰いの技巧を弄する、——応供の資格なくして供養を受ける苦脳(ママ)には堪えきれなくなったのである。

文字遣い

新字新仮名

初出

「「三八九」第壱集」1931(昭和6)年2月2日

底本

  • 山頭火随筆集
  • 講談社文芸文庫、講談社
  • 2002(平成14)年7月10日