ものをたいせつにするこころ
物を大切にする心

冒頭文

物を大切にする心はいのちをはぐくみそだてる温床である。それはおのずから、神と偕(とも)にある世界、仏に融け入る境地へみちびく。 先年、四国霊場を行乞巡拝したとき、私はゆくりなくHという老遍路さんと道づれになった。彼はいわゆる苦労人で、職業遍路(信心遍路に対して斯く呼ばれる)としては身心共に卑しくなかった。いかなる動機でそういう境涯に落ちたかは彼自身も語らなかったし私からも訊ねなかった。彼

文字遣い

新字新仮名

初出

「広島逓友」1938(昭和13)年9月

底本

  • 山頭火随筆集
  • 講談社文芸文庫、講談社
  • 2002(平成14)年7月10日