みち〔とびらのことば〕 |
道〔扉の言葉〕 |
冒頭文
いつぞや、日向地方を行乞した時の出来事である。秋晴の午後、或る町はずれの酒屋で生一本の御馳走になった。下地は好きなり空腹でもあったので、ほろほろ気分になって宿のある方へ歩いていると、ぴこりと前に立ってお辞儀をした男があった、中年の、痩せて蒼白い、見るから神経質らしい顔の持主だった。 『あなたは禅宗の坊さんですか。……私の道はどこにありましょうか』 『道は前にあります、まっすぐにお行きなさい
文字遣い
新字新仮名
初出
「「三八九」第六集」1933(昭和8)年2月28日
底本
- 山頭火随筆集
- 講談社文芸文庫、講談社
- 2002(平成14)年7月10日