くさとむしとそして
草と虫とそして

冒頭文

いつからともなく、どこからともなく、秋が来た。ことしは秋も早足で来たらしい。 昼はつくつくぼうし、夜はがちゃがちゃがうるさいほど鳴き立てていたが、それらもいつか遠ざかって、このごろはこおろぎの世界である。こおろぎの歌に松虫が調子をあわせる。百舌鳥の声、五位鷺の声、或る日は万歳万歳のさけびが聞える。夜になると、どこかのラジオがきれぎれに響く。 柿の葉が秋の葉らしく色づいて落ちる。

文字遣い

新字新仮名

初出

「愚を守る 初版本」1941(昭和16)年8月

底本

  • 山頭火随筆集
  • 講談社文芸文庫、講談社
  • 2002(平成14)年7月10日