あかいつぼ |
赤い壺 |
冒頭文
『あきらめ』ということほど言い易くして行い難いことはない。それは自棄ではない、盲従ではない、事物の情理を尽して後に初めて許される『魂のおちつき』である。 私は酒席に於て最も強く自己の矛盾を意識する、自我の分裂、内部の破綻をまざまざと見せつけられる。酔いたいと思う私と酔うまいとする私とが、火と水とが叫ぶように、また神と悪魔とが戦うように、私の腹のどん底で噛み合い押し合い啀(いが)み合うている。
文字遣い
新字新仮名
初出
「層雲 大正五年一月号」1916(大正5)年1月
底本
- 山頭火随筆集
- 講談社文芸文庫、講談社
- 2002(平成14)年7月10日