かいぎょうい |
| 開業医 |
冒頭文
一 或田舍の町である。裏通の或一部を覗くと洗張屋が一軒庭へ布を張つてあつて其庭先からは青菜の畑があるといふので、そこらをうろつく雞の群が青菜の畑へ出るとほう〳〵と雞を追ふ百姓の叱り聲が聞かれる。春になると其の畑からさうしてそこらあたりに隱れて居た青菜が一時に黄色な頭を擡げてすつと爪立てをしてそれから白桃の花が垣根に咲いて、洗張屋は庭の短い青草に水を滾しながら引つ張つた布を刷毛でこすつて居
文字遣い
旧字旧仮名
初出
「ホトトギス 第十二卷第四號」1909（明治42）年1月1日
底本
- 長塚節全集 第二巻
- 春陽堂書店
- 1977（昭和52）年1月31日