さどがしま なみのうえ
佐渡が島 波の上

冒頭文

汽船はざぶ〳〵と濁水を蹴つて徐ろにくだる。信濃川も川口がすぐ近く見える。渺茫たる海洋がだん〳〵と眼前に展開する。左岸には一簇の葦の穗の茂りがあつて其先からは防波堤が屈曲して居る。葦の茂りを後にするとそれから續いた長い磯が見え出して遙かに猫の耳のやうな二つの山が兀然として聳えて居る。此は彌彦の山系である。其中腹から長い手のやうにずうつと佐渡が顯はれ出した。汽船は防波堤に隨つて屈曲して進む。防波堤の上

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「佐渡が島 長塚節自筆草稿」日本古書通信社、1966(昭和41)年9月

底本

  • 長塚節全集 第二巻
  • 春陽堂書店
  • 1977(昭和52)年1月31日