すまあかし
須磨明石

冒頭文

蕎麥屋 須磨の浦を一の谷へ歩いて行く。乾き切つた街道を埃がぬかる程深い、松の木は枝も葉も埃で煤が溜つたやうに見える、敦盛の墓の木蔭にはおしろいが草村をなしてびつしりと咲いて居る、柔かな葉はやつぱり埃が掛つて居るが、赤や黄の相交つた花には目立つて見えぬ、敦盛とおしろいの花といふ偶然の配合に興味を感じて名物の敦盛蕎麥へはいる、店先にはガラスの駄菓子箱があつてそれも埃である、歪んだ二疊程の座敷

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「馬醉木 第三卷第六號」1906(明治39)年10月12日

底本

  • 長塚節全集 第二巻
  • 春陽堂書店
  • 1977(昭和52)年1月31日