おふさ
おふさ

冒頭文

刈草を積んだ樣に丸く繁つて居た野茨の木が一杯に花に成つた。青く長い土手にぽつ〳〵とそれが際立つて白く見える。花に聚つて居る蟲の小さな羽の響が恐ろしい唸聲をなしつゝある。土手に添うて田が連る。石灰を撒いて居る百姓の短い姿がはらりと見えて居る。白い粉が烟の如く其の手先から飛ぶ。こまやかな泥で手際よく塗られた畦のつやゝかな濕ひが白く乾燥した田甫の道と相映じて居る。蛙が聲の限り鳴いて居る。田の先も對岸も皆

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「ホトトギス 第十二卷第十二號」1909(明治42)年9月1日

底本

  • 長塚節全集 第二巻
  • 春陽堂書店
  • 1977(昭和52)年1月31日