たびのえ
旅の絵

冒頭文

……なんだかごたごたした苦しい夢を見たあとで、やっと目がさめた。目をさましながら、私は自分の寝ている見知らない部屋の中を見まわした。見たこともないような大きな鏡ばかりの衣裳戸棚(いしょうとだな)、剥(は)げちょろの鏡台、じゅくじゅく音を立てているスティム、小さなナイト・テエブルの上に皺(しわ)くちゃになって載っている私のふだん吸ったことのないカメリヤの袋(私はそれを何処(どこ)の停車場で買ったのだ

文字遣い

新字新仮名

初出

「新潮」1933(昭和8)年9月号

底本

  • 燃ゆる頬・聖家族
  • 新潮文庫、新潮社
  • 1947(昭和22)年11月30日発行、1970(昭和45)年3月30日26刷改版