ルウベンスのぎが
ルウベンスの偽画

冒頭文

それは漆黒の自動車であった。 その自動車が軽井沢ステエションの表口まで来て停(と)まると、中から一人のドイツ人らしい娘を降した。 彼はそれがあんまり美しい車だったのでタクシイではあるまいと思ったが、娘がおりるとき何か運転手にちらと渡すのを見たので、彼は黄いろい帽子をかぶった娘とすれちがいながら、自動車の方へ歩いて行った。 「町へ行ってくれたまえ」 彼はその自動車の中

文字遣い

新字新仮名

初出

第一稿「山繭」1927(昭和2)年2月1日号、改稿「創作月刊」文藝春秋社、1929(昭和4)年1月号

底本

  • 燃ゆる頬・聖家族
  • 新潮文庫、新潮社
  • 1947(昭和22)年11月30日発行、1970(昭和45)年3月30日26刷改版