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冒頭文
ヴオルガ河岸のサラトフといふ處で、汽船アレクサンダア二世號が出帆しようとしてゐた時の事だ。客は恐ろしく込んでゐた。一二等の切符はすつかり賣切れて了つて、三等室にも林檎一つ落とす程の隙が無く、客は皆重なり合ふやうにして坐つた。汽笛の鳴つてからであつたが、船の副長があわたゞしく三等客の中を推し分けて來て、今しがた金を盜まれたと言つて訴へた一人の百姓の傍に立つた。 『ああ旦那、金はもう見(め)つか
文字遣い
旧字旧仮名
初出
「曠野」1910(明治43)年7月
底本
- 啄木全集 第十卷
- 岩波書店
- 1961(昭和36)年8月10日