びょうしつより
病室より

冒頭文

五百二十一 外は海老色の模造革、パチンと開けば、内には溝状に橄欖色(オリーブいろ)の天鵞絨(ビロード)の貼つてある、葉卷形のサツクの中の檢温器! 37 といふ字だけを赤く、三十五度から四十二度までの度をこまかに刻んだ、白々と光る薄い錫の板と、透せば仄かに縁に見える、細い眞空管との入つた、丈四寸にも足らぬ小さな獨逸製の檢温器! 私はこの小さな檢温器がいとしくて仕方がない。美しいでもなく、

文字遣い

旧字旧仮名

初出

底本

  • 啄木全集 第十卷
  • 岩波書店
  • 1961(昭和36)年8月10日