うつくしいむら |
美しい村 |
冒頭文
天の灝気(こうき)の薄明(うすあかり)に優(やさ)しく会釈(えしゃく)をしようとして、 命の脈が又(また)新しく活溌(かっぱつ)に打っている。 こら。下界。お前はゆうべも職を曠(むなしゅ)うしなかった。 そしてけさ疲(つかれ)が直って、己(おれ)の足の下で息をしている。 もう快楽を以(もっ)て己を取り巻きはじめる。 断(た)えず最高の存在へと志ざして、 力強い決心を働かせているなあ。
文字遣い
新字新仮名
初出
序曲「大阪朝日新聞」(「山からの手紙」の表題で。)1933(昭和8)年6月25日、美しい村「改造」1933(昭和8)年10月号、夏「文藝春秋」1933(昭和8)年10月号、暗い道「週刊朝日 第25巻第13号」1934(昭和9)年3月18日号
底本
- 風立ちぬ・美しい村
- 新潮文庫、新潮社
- 1951(昭和26)年1月25日、1987(昭和62)年5月20日89刷改版