だれがなにゆえかれをころしたか
誰が何故彼を殺したか

冒頭文

一 下田の細君が台所の戸を開けたときは、まだ夜があけてまもない時刻だった。 その朝は、東京に気象台はじまって以来の寒さだったことが、その日の夕刊で、藤原博士の談として報じられた程で、まるで雪のようなひどい霜だった。地べたは硝子(ガラス)をはりつめたように凍(い)てついていた。 彼女は左手にばけつをさげ、右手に湯気のもやもやたちのぼる薬缶(やかん)をさげて井戸端へいった

文字遣い

新字新仮名

初出

「新青年 八巻五号」1927(昭和2)年4月号

底本

  • 平林初之輔探偵小説選Ⅰ〔論創ミステリ叢書1〕
  • 論創社
  • 2003(平成15)年10月10日